夢はかなう。

新宿・歌舞伎町のQ&Bで、DJとして勤め始めた僕は、最初のいやな感じとは裏腹に、意外とすぐに順応しはじめた。

相棒の黒人DJ・・ボージーも最初の出会いでは、人の指輪にケチを付けたりしたけれど、最初に自分の考え方や立場を打ち出しておこうという、なんてのかな、彼流の交際術だったようだ。
それ以降は気難しいことも言わず、むしろ、思いやりのある真面目な男だった。相手の理解を確認しながら話す物腰には、それまで、V-Oneで一緒だったブラザー達とは異質なものを感じた。

ボージーは、兵役が終わったら音楽業界でビジネスをやるんだと話し始めた。

「テリーは、将来はどうするんだ?」
まさか、そんなことを聞かれるとは思ってもなかった。第一、当時は将来のことなんて考えていなかったものなぁ。

「僕?・・わからないな・・今は学生だし。あまり、考えてないよ。でも、出来たら、やっぱり、自分でなにかやりたいな。」
「Your own business? それなら、クリアな目標をもたなきゃ無理だよ。俺は、もう準備をしてるぜ。絶対、成功するんだ。」
ボージーは得意げに言って、眼鏡の奥の瞳を輝かせた。僕と彼は同い年くらいなのに・・彼のようなビジョンがないのが恥ずかしかった。

悔しいのもあって、思わず・・こういったのを覚えている。
「いや、僕はブラックミュージックのDJになるんだよ。ラジオとかのね!」

ボージーは、ゲンコツを突き出して握手を求めながら言った。
「やれよ、やれよ!俺がいろいろと教えてやるよ」
「あ、ありがとう」
ボージーとゲンコツをぶつけて指を鳴らしながら、僕は、うん、そうしよう。それがいいや!と思って、妙にうれしくなった。

ボージーは、ダンサーズを作っていた。
まぁ、彼の言う「準備」の一環というわけだったんだね。
正直言って、ボージー本人は踊りがうまいとは思えなかったの。
だから、彼がダンサーズの話をした時には、その実力には、ちと懐疑的ではあったんだ。

ボージーの同僚の子供達とやっていると言うことだった。つまり、横田基地にすんでる軍人の家族ってことだよね。

「ふ〜ん。子供って、小さいの?何人?」
「4人姉弟だよ。上の二人が女の子でハイスクール。下の二人は男で双子、小学生さ。」
「へ〜!小学生なの?ずいぶん、ちっちゃいなぁ!」

僕が小馬鹿にしたように言うと、ボージーはちょっと、ムキになって言った。
「ビッグツギャザーとか、いろんなところでショーをやってるんだぜ。おまえも見に来いよ。」
当時、TVのソウルトレインが日本でも放映されていて、番組中で踊っている「サムシング スペシャル」というダンサーズチームが有名になっていた。
ボージー曰く、サムシングスペシャルを研究して振り付けているということだった。

双子の男の子は、デイビーとデオ。
大きなアフロで、華奢な体つきで踊る姿がかわいかった。
黒人の男の子にしては、彼らは小柄な方だったと思う。
いつも、子犬のようにじゃれ合っていた。

二人がロボットを踊ると、最高に面白かった。
特に「ベースボール」っていうのが傑作で、二人が、それぞれ、ピッチャーとバッターになってロボットのように投げたり打ったりするわけさ。
空振りしてひっくり返るのまで、ロボットチックで、ファンキーで、やっぱ、血は争えないなぁと思ったなぁ。

上のお姉さん二人は、一人がオーラ。もう一人の名前が、どうしても思い出せない・・。
オーラはかわいかったなぁ。彼女がディスコに行くと、ブラザー達が皆振り返ったものだ。
僕が出会った頃は高校生だったけど、この姉妹は、TVの「コーヒービート」とかっていう・・あれは、缶コーヒーだったか、キャンディだったか?のCMに出たりしてたから、覚えてる人もいらっしゃるんじゃないかな。

オーラが口癖のように言っていたこと・・。
「私は、スターになるのよ。」
いくら、ちょっと可愛いからといって、そう簡単にスターになれるもんじゃないだろ・・とかって思ったけど、いつもいつも言っているので、こっちまで、その気になっていったから不思議なものだよね。

夢の力は大きい。

そう思い知ったのは、7〜8年も経ったときのことだけど・・
以下は、後日談として書かせてもらいますね。

82年にマイケルジャクソンがスリラーのメガヒットを出したとき、僕は既にディスコ業界にはおらず、結婚して自営をはじめていたんだ。
ディスコ時代のことも、過ぎ去ったこととして、毎日の雑務の中に埋もれはじめていた。

でも、スリラーのプロモ・ビデオだけは大きな話題になっていたので、さすがに興味もあって借りてきた。ビデオデッキに入れて、夕食を食べながら見始めた僕は、思わず自分の目を疑った。
マイケルジャクソンの相手役として踊っているのは、紛れもなく、あのオーラだったんだ。

夢はかなうんだなぁ!

画面の中で、踊り、笑い,光り輝いているオーラを見ながら、そう思った。
うん!
心からそう思えて幸せな気分になれた僕でした。


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